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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(行ツ)88号 判決 1972年11月02日

三重県松阪市長月町一七二番地の三

上告人

中山木材生産有限会社

右代表者清算人

中山義雄

右訴訟代理人弁護士

加藤博隆

冨島照男

名古屋市中区三の丸三丁目三番二号

被上告人

名古屋国税局長

中西清

三重県松阪市殿町一三一五番地の三

被上告人

松阪税務署長

兼子俊

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和四〇年(行コ)第七号法人税賦課処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四一年七月一九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人加藤博隆、同冨島照男の上告理由について。

論旨は、原判決には、採証法則違背、法令の解釈適用の誤り、審理不尽、理由不備の違法があると主張する。

しかし、乙一〇号証(法人の効率表)に「昭和三〇年八月調査分」との記載があることは所論のとおりであるが、それは調査の時点をいうのであつて、調査の対象となつた時期をいうものではなく、原判決挙示の同号証の「標準算定期間」の記載および一審証人北村頼雄の証言によると、同号証は、上告会社の係争事業年度を含む期間についてなされた調査に基づくものにほかならない。そして、同号証の調査の対象となつた諸企業の営業種目において、所論のように若干の小売りを含むものがあり、また、上告会社の市場が東京国税局管内にあるとしても、本件の事実関係のもとにおいては、上告会社の係争事業年度の所得を二五七万〇八〇〇円、法人税額(重加算税額を含む)を一六一万九二三〇円とした被上告人税務署長の原処分およびこれを維持した被上告人国税局長の審査決定を相当とした原判決は、これを是認しえないものではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

よつて行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)

(昭和四一年(行ツ)第八八号 上告人 中山木材生産有限会社)

上告代理人加藤博隆、同冨島照男の上告理由

第一点 原判決は採証方則を誤り、且つ法令の解釈適用を誤り、又判決の審理不尽、理由不備の違法があり、破棄を免れない。

原判決は昭和二八年度における上告人会社の所得を推計するに当つて、まず売上高九、一五七万七、四一五円を認定し、乙第一〇号証の効率表に基き、材木業者の平均営業利益率四・一パーセントなる利益率を之に乗じ利益額を推定している。

然しながら、

(1) 乙第一〇号証の法人の効率表は、同号証の一にも昭和三〇年八月調査分と明記されて居り、且つ同号証の二にも算定期間として「自二九、一~三〇、三」と記載ある如く、同期間内の法人の効力を調査した結果作成されたものに外ならない。

そして係争年度は言うまでもなく昭和二八年度であり、昭和二八年四月一日より、同二九年三月末日までの取得に対する法人税である。

当時、木材については価格の変動が甚しく、従つて業者に於ける利益率は年度毎に大なる変動のあつたことは公知の事実である。

従つて、昭和三〇年八月調査の利益率を根拠として、昭和二八年四月より同二九年三月の営業利益を算出する根拠とした原処分及び原決定は、著しい違法を犯しており、漫然同号証を根拠として同決定を認容した原判決も亦重大な違法を犯している。

(2) 乙第一〇号証には、営業種目として木材卸売業と明記されていて、調査対象の業種は、木材を生産者より買入れ小売業者に販売する業態であり調査対象の八企業では、三〇パーセント以内の小売を含むものである。

上告会社の営業は、僅少の買収品の市場に於ける販売の他は、大部分が同社経営の市場に於て委託品を販売し、その手数料収入を得る業態であつた。

従つて、効率算定の基礎となつた業態である木材卸売業と、上告会社の委託手数料を主眼とする市売とは、その経費も相違し、利益率も大きな距りのあること当然である。

木材卸売業は固定した店舗で営業を営み、得意先が固定し、集荷のための費用は少額である。

市売は之と異り、特定日に市を開催し、同日までに多方面より多様な商品を集荷する必要があるので、そのため集荷に関する費用が莫大であり、両者に大きな相違がある。

殊に、上告会社は右市売を従来の松阪に於ける営業所を離れ、新奇に東京都に昭和二七年に開始し、開業早々であるから、特に費用の増加したこと当然である。

又、木材卸売業は、卸取引形態の外小売も含み、乙第一〇号証の基礎となつた八企業では、三〇パーセント以内ではあるが、小売も併せて行つている。

この小売の場合は利益率は高いこと公知の事実である。

然るに、市売の場合は小売を全然含んでいないのであつて、これ等諸点より見て、上告会社の利益率推定に木材卸売の利益の効率を適用することは採証法上の原則にかなわない。

(3) 乙第一〇号証は、名古屋国税局管内の業者を調査の対象としている。

然しながら、上告会社市場は東京国税局管内に属し、地域に差があり、両者に於て取扱商品の種類、諸経費従つて、利益率は大いに相違し、両者類似として一を他の推定の基礎となし得ないことも公知の事実と云うべきである。

(4) 惟うに、法人税法第一三一条にいう推計課税が許されるためには、

1 推計による以外、いかなる方法によるも法人の当該年度の所得を確定することが出来ないこと(必要性)。

2 推計の根拠が、客観的に公正妥当且つ適正であることを要し、右を担保するため、課税者たる国は、同業種における平均的営業比率を把握しなければならないのは勿論同比率を当該法人に適用するに当つては、当該法人の営業種目、販売方法、営業施設、人員構成、資金的裏付け、営業の歴史、地域的特殊性等その他一切の事情を考慮して之を修正して適用すること。

を要求される。

然るに、本件における乙第一〇号証は、年度に異にし、地域を異にし、その上、業種をも異にする八社にすぎない中庸の法人の単純な算数的平均値を算出されているにすぎず、推計の根拠としては、極めて不適当且つ信憑性に乏しい効率表でしかなくかゝる効率表が法人税法第一三一条に期待する推計の資料たり得ないことは言をまたないところである。

しかも、原判決は、右効率表を漫然単純に上告人会社の当該年度売上げに乗じて所得を算出し

前記効率表が北村証言にも明らかな如く、業界における中庸的法人の平均値を表わすものであつてみれば、それは、中庸的売上額をもつ、中庸的規模の販売能力を有する中庸的規模の平均値を算出するという限りにおいては適正であつても、之を質的に異なる中庸でない下級法人に対する推計の根拠として利用出来ないことは明白である。

以上を要するに、原判決は法人税法第一三一条の期待する適正な推計資料とは言えない乙第一〇号証を唯一の根拠として、原処分の適法性を是認し、以つて採証法則違背、理由不備、同法第一一条の解釈及び適用を誤まるの違法を犯しているというべく、いずれの理由によるも破棄を免れない。

以上

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